春爛漫
いろとりどりの はなを纏い 精霊たちに連れられて春がやってくる
ほのかに甘い風に身をゆだね 季節の移ろいに心ゆだねる。
大自然の神々が交代する神聖な儀式。
冬から春へと また季節が生まれ変わる。
何度もちりては又何度も再生する花のように。
満ちては欠け、また満つる月のように
今年も又 儀式は行われ、季節は移り行く。
地球を彩るすべての花々が心待ちにしていた季節の到来。
ロキ 「わしは桜の精霊じゃからこの季節が一番好きじゃ。
ずいぶんと、ぬくくなったからのう。そろそろかの。」
ジュリエット「いえ、まだ早すぎます。梅の精がいってからにしましょう。」
ジュリエット「永遠を生きる我々にとって大自然の声は時の音そのもの。
春の息吹は神々の到来の知らせ。美しい季節が楽しみだ。」
ロキ 「吸血鬼は神々が恐くないのかの?」
ジュリエット「私が恐ろしいのは人間が作り出した神。信仰心が怖いのです。
春を彩る花々が恐ろしいわけではありません。」
ロキ 「大自然は何も変わっておらぬというのに、我々は闇へ追いやられ、
いつからか、住み辛い世になったものよのう。」
ジュリエット「我々の存在を信じる人々が少なくなってしまったからでしょう。」
ロキ 「昔はだれもが大自然の神々を信じて畏怖の念を持っていたものじゃ。
同時に妖怪や人ならざる者、神秘や月の魔力なども信じていたものじゃ。」
ジュリエット「貴方もその時代から生きてこられたのですね。」
ロキ 「もうどれぐらいの時間(とき)を繰り返したのか、わしがこの世に
どれぐらい在るのかさえ忘れてしまった。
ロキ 「花を咲かせては散らせ、神の到来を待つ。
どれほど廻らせておるのか、数えきれないぐらいじゃが、
同じ春は2度と来ない。毎年、違う春がやってくるのじゃ。
来年(らいねん)も又、慣(なら)わしどおり違う春がやってくるはず。」
ジュリエット 「もう来年(らいねん)の春の話などと、鬼が笑うぞ。」
ロキ 「太古のむかしの世界は、我々精霊が神々からのメッセージをこの大地に
伝えてきた。毎年次の年のことを考えながら存在しておったものよ。」
ジュリエット 「昔とはもう違う世の中になってしまった。人々は変わってしまったからな。
自然は何も変わっていないのに。」
ロキ 「耳をすましてみよ。大自然のおとが聞こえてくるはずじゃ。」
ジュリエット 「現代社会が生み出した雑多な音を聞くのを今一度やめてみてごらん。
また昔のように、精霊たちの声が聞こえてきますから。」
ジュリエット 「ところで、ロキよ、人間たちが耳をかたむけてくれたらば、一体どんな
メッセージを届ける?」
ロキ 「自然への畏怖(いふ)の念を忘れるでない、と。手を合わせ心込めて
祈れば必ずその声(こえ)は天(てん)に通ずると。
その気持ちを忘れるでないと。我々は常に傍にあるのだから。」
今年もまた桜がさくであろう。季節(きせつ)がゆうるりと移ろぐのであろう。
目(め)には見(み)えねども、精霊たちはそこにいた。
しずしずと・・・・儀式は終わり、また1年がくりかえされる。
それは永遠(えいえん)に続く物語。
ひとひらの花びらが、もりへ、やまへ、かわへ、たきへ、
精霊(せいれい)たちの声とともに登りゆく
大自然の神々に春の便りはまだかと問う
すこしだけ耳を傾けてごらん。
春が聞こえるはず。